2013.06.10

vol.5 ディナー中の出来事

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ある日のディナーです。ご来店されたお客様は様々な食の経験をもつ方で、藤木シェフの料理を楽しみにいらっしゃいました。この日は、シェフに全てをまかせたコースをご希望され、選ばれたワインは『1988年リシュブール』。その香りは、百の花を集めたようなと形容される、ブルゴーニュの最高峰のワインの一つです。この作り手のものは、その飲み頃を見極めるのが難しいといわれています。この日の料理は以下のコースです。

今回の注文頂いたワインの抜栓前の予想では、良い年ならではの強さはあるにせよ、熟したブルゴーニュらしい甘味も感じられるのではと思っていました。私の経験でも、80年代の半ばから後半では、既に独特の海藻のようなミネラル感と腐葉土やポートワインのような熟した良さが出ていたので、このワインもそのイメージを持っていました。しかし、状態を見る為香りを嗅ぐと、東洋系スパイスや植物的な硬いイメージです。口に含むとその香り通り、頑強で飲み手を寄せ付けない酸とタンニン。果実味を隠してしまうほどの味わいでした。

大きなバルーングラスに移すも、強さを和らげるには時間の必要なワインでした。シェフともある程度の予想の上でのメニュー組みをしていましたので、料理との相性というのも難しくなってしまいます。

そこで裏話になりますが、エスポワールではこの料理にこのケースというのは決めていません。シェフは、その日料理とともに楽しむワインの味やお客様の体調、気候によっても、ソースの味付けや香りの付け方などを変えていきます。より100%に近づける為、その都度指示を出していきます。

今回の指示は、オマール海老のポワレの付け合わせにバナナをオーブン焼きにしてバニラの香りを付ける事。ソースはフォン・ド・ジビエを煮詰め、甘味のあるソースで仕上げる事でした。

「甘味」がポイントです。

ただ、甘くするだけではワインの味を損ないかねません。ワインの酸味・渋味を中和させるレベルで、尚且つ食材とのバランスも必要です。私としてもヒヤヒヤしながらお客様を見守っていました。正直、私もワインと料理がどのような味になるか想像もつきませんでした。そしてお客様からのいただいた一声「不思議」でした。

狙い通りです。

ワインの酸や渋味と「甘味」がうまく調和し、ワインを引き立てていたそうです。そしてメインの牛舌グリルでは、リンゴとスパイスを使うことで、魚料理の時とは違ったニュアンスで料理とワインをお楽しみいただくことが出来ました。まさしくチーム一丸です。

ソムリエとは一般的には料理に合うワインを選ぶ事が仕事ですが、中にはいつもと味が違うものなど予想を覆してしまうワインもあります。そのような時ソムリエは、グラスを選び温度調節・デカンタージュによって味わいを変えようとしますが、やはり限度があります。エスポワールでは、料理の主になるものは変えませんが、ソースや付け合わせ・スパイスにより変化をつけ、よりお客様に楽しんでいただけるよう、直前まで努力をしています。

是非、厨房からの全力の一皿をお楽しみください。

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