2016.05.06

vol.32 エスポワールのワイン会の話

エスポワールでは、年に二回ほどですが、ワイン会を開催しています。この「支配人から~」でもワイン会で扱うワインの話を載せたこともありましたが、今回はワインに合わせて準備された料理についてお話したいと思います。

ワイン会にご参加いただいたお客様に「ワインと料理の組み合わせはワインに料理を合わせたのか?料理に合わせてワインを決めたのか?」とよく質問を受けます。エスポワールのワイン会では、まず私が会のテーマを決め、それに沿ったワイン選びをします。同じようなワインばかりにならないよう、味の比較や年号による違いなども感じていただけるように選んでいきます。

料理はシェフの感性で「こういった料理を食べていただきたい」というイメージを膨らませてメニューを考えます。その時点で私にもメニューのイメージを教えてもらいます。そして、この料理にはこのワインといった銘柄を絞りこんで外枠が決まっていくのです。

シェフの方ではより料理内容を具体化させていき、香り、旨み、酸味、苦味、甘味といった五味に、さらに複雑さを持たせながら、より細かな味をイメージしていきます。加えて、食感も楽しんでいただけるよう、火入れ方法にもこだわって料理を考えていきます。シェフの頭の中では、完全に香りや味の調合は出来上がっているので、説明を受けるときには毎回その具体性に驚きます。

先日、オールドヴィンテージワインをテーマにしたワイン会がありました。50年代から80年代の繊細な味わいのワインを用意しました。(内容はこのコーナーのvol24古酒の会のワイン~vol29古酒の会のワイン<その6>でご紹介しています。)

個性の角が取れ、複雑さを備えたワインに合わせる料理を考案するときには、食材選びでもあまり個性の強いものは避けて、間違いなく合うだろうというものを使うのが普通だと思います。しかし、シェフはワインのために食材を妥協するのではなく、使いたい食材を使って、驚きとインパクトのある料理を作りながらも、きちんとワインと料理を合わせる要素も作り出します。このワイン会でも1970年のシャトーマルゴーが登場したのですが、今のスタイルとは違ったエレガントで繊細な味わい、しかも熟成香が備わったもので、提供温度やあわせる料理によってはバランスを崩しやすい難しいワインです。それにあわせた料理は「赤穂産牡蠣と牛肉のタルタル、サヴァイヨン仕立て」でした。そのときの私と同様、驚いた方もいらっしゃると思いますが、牡蠣とオールドヴィンテージの赤ワインの組合わせは、不快に感じる香りを引き立たせる可能性が強いのでお勧めするソムリエは少ないでしょう。

私もシェフに確認すると、全く心配していない雰囲気で料理の説明をしてくれました。

新鮮な牡蠣をさっと湯通しし小さくカットします。牛肉はプティサレといって少量の塩を振って数日休ませることで旨みが増します。たまねぎは塩もみをし、辛味とたまねぎ臭さををしっかり抜きます。そこにオリーブのみじん切り、味付けにタルタル用のタバスコを入れ味を決めます。そこに流すソースはバターたっぷりのオランデーズソース(バターと卵黄でつくるソース)です。

この料理の味を見たときにまず感じたのが旨みでした。牡蠣と旨みが凝縮した牛肉の味が一体となって、別の食材になったように感じます。塩もみしたたまねぎも風味がうまく調整されていて良い触感のアクセントです。この料理にこの食感は欠かせません。

そこにバターたっぷりのオランデーズソースが絡むと牡蠣と牛の風味がさらにまろやかに調和します。

これらの行程によって食材の持つ味をうまくコントロールし、普通なら敬遠される組み合わせでも不思議なほどうまくマッチします。もちろん料理だけでもすばらしい味わいです。オールドヴィンテージの赤ワインと牡蠣のマリアージュは料理の工夫でも成立するのです。

料理の方程式や先入観を覆すおいしさに出会ったときというのは、感動がより一層増します。エスポワールのシェフは常にその感動を感じていただけるよう料理を考えています。エスポワールのワイン会ではそんな先入観を覆すような、シェフの感性が伝わる料理が作られます。私自身も毎回シェフの料理を楽しみにしています。そのような相性を多くの皆様に体感していただけるような場面もこれからつくって行きたいと考えています。

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