2017.12.05

vol.35 ホスピス・ド・ボーヌ

先日、ジビエをご希望のお客様から、熟成したブルゴーニュでコクのあるワインが飲みたいとのリクエストがありました。

メインディッシュは、山鳩のカイエットという山鳩のお肉でジビエのミンチ肉を包み焼きにしたお料理と、鹿肉のローストのご注文を頂いておりました。私の方でご紹介したワインは、1982年の「Hospice de Beaune Volnay」(オスピスドボーヌ ヴォルネイ)です。フランスのブルゴーニュ地方では毎年11月の第三日曜日に世界中のワイン関係者が注目するワインオークションがあります。ボーヌ市にある慈善病院が醸造し、樽に詰めた状態のワインをオークションにかけるというものです。落札されたものはネゴシアン(ワイン商)により別の小樽に移し替えられ、熟成後瓶詰めし、落札者の名前や樽熟成を行ったワイン商の名前が入ったラベルが張られます。

今回のワインは、ベルギーのレストランが落札したもので、輸入元の話ではこのレストランが店を閉店するにあたって手放したボトルです。オスピスドボーヌのワインの特徴は、すべてにいえることではありませんが、熟成したものはブドウの香りに樽熟成由来の香りが溶け込み、パウンドケーキやサクランボのリキュールのような甘い香りとスパイスやなめし皮のような熟成香が感じられます。さらにオレンジピールの甘くビターな雰囲気と豊かなボリュームがあります。お客様にもとても喜んでいただき、ジビエの持つ鉄分と旨味を豊富に持つ味わいをやわらげ、とても良い相性だったとの感想を頂きました。

ヴィンテージは違いますがエスポワールのキャビネットにオスピスドボーヌのボトルが飾られています。もちろん中身は入っていません。ヴィンテージは1986年「Hospice de Beaune Beaune 」(オスピスドボーヌボーヌ)というワインです。ネゴシアンのモワラール社が落札し、樽熟まで行った物です。このボトルはシェフにとって特別なワインです。

ある常連のお客様が2004年の10月にご来店いただいた際に頂いたもので、当時の私はサービスをしてはいたものの、まだワインについては知識がなく、ワイン名を辛うじて聞いたことがあるくらいでした。そのワインを開栓し、お客様と一緒に味わった際、シェフはその香りの複雑さ、広がり、味わいの奥深さに今までにない感激をしたそうです。

そのお客様は蓼科に別荘があり、和洋問わず食経験がとても豊富なご夫妻です。もちろんワインも様々なものを召し上がられてきています。エスポワールのオープン当初からお越しいただき食材のことなども数多くアドバイスをいただいてきました。このワインを飲みながらお客様から頂いたのは「シェフね。お客は食事中にワインを飲みながら料理を食べるのだから、作る人間がワインを飲まないと楽しませることはできないよ。」との言葉だったそうです。その言葉と頂いたワインの味わいに感銘を受け、ワインの特徴や味のバランスを覚えることや、料理とワインの相性を常に意識し試行錯誤し調理をしたそうです。

いま、エスポワールでは、300種を超えるワインを取り揃えています。お客様の選んだワインとお料理をより楽しんでいただくために、ワインに合わせて料理の味付けを変えるスタイルをとっています。それによりさらに食事の時間をさらに楽しんでいただくことができます。

ご夫妻はエスポワールにいらしていただく度に、シェフや私に様々な面からアドバイスを下さり応援して下さいました。また、ご提案したワインの相性においても感じたままの感想をおっしゃって下さるので、毎回課題も見つかり大変感謝しています。シェフもこのオスピスドボーヌのボトルを見るたびに、当時のことを思い出し、料理とワインの相性をさらに追及しようという気持ちになるそうです。残念ながら昨年奥さまが亡くなられてしまいましたが、過去にご夫妻から頂いた言葉は今でも私たちの中にしっかり残っています。

これからもワインと料理の相性を楽しんでいただけるよう追及していきたいと思います。

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