2015.12.12

vol.31 至高のマリアージュ

私はエスポワールで何年もソムリエの仕事をしていますが、サービスをしながらでも憧れる料理とワインのマリアージュが幾つもありました。料理とワインは一期一会です。この先、全く同じ組み合わせというのは実現することはないかもしれませんが、憧れるマリアージュの中の一つをご紹介します。

半月ほど前になりますが、エスポワールのオープン以来ご利用いただいている常連のお客様にお出しした料理とワインが、まさに「味わってみたい!」と思う組み合わせでした。

この日のディナーコースのお魚料理は『鮑と牛肉のパイ包み焼き』でした。ネーミングはシンプルですが、これがまた複雑な味わいに仕上がる料理です。主役の鮑は、白ワインと富士見町産のセロリと共に煮込み、身を柔らかくするのと同時に爽やかな香りをつけます。その鮑と一緒に、牛すじ肉の赤ワインで煮、さらにイカスミを加え、パイ生地に包んで焼き上げます。ソースは鮑を煮込んだ白ワインとセロリの煮汁にコクと香りの複雑さをつけるために、バターとヴェルモット(香草で香りをつけたワイン)を加えてさらに煮詰め仕上げています。濃厚ではありますが爽やかな印象です。付け合わせはソースのベースになった煮汁で軽く煮込んだセロリです。

ご注文をいただいたワインは『94 Montrachet Etienne Sauzet』です。白ワインの最高峰。かの文豪アレクサンドル・デュマが「膝間付いて、脱帽し飲むべし」とワインへの敬意を表した言葉は有名です。この作り手は、モンラッシェの畑は所有しておりません。契約により名前は公表していませんが、シャサーニュモンラッシェ村のモンラッシェ畑から収穫され醸造されたワインを樽で買い付け瓶詰めしています。その堂々たる味わいはあんずのフレーバーと熟成したシャンパーニュにも似た複雑さに、甘く感じるようなキャラメルミルクのニュアンスもあり、落ち着いた酸味とで高貴で風格を備えたものでした。熟成度合いも素晴らしく現実を忘れてしまうくらい魅力的なものでした。このように特別な銘柄になると、勉強で試してみようというわけにはいきません。

こんがり焼けたパイ生地の香りと、カスタードプリンのような甘い熟成香。鮑、イカスミからの魚介類の旨味と牛肉からの動物性の旨味の融合と、熟成がもたらした複雑さを備え、完成されたバランスを持つワイン。想像しただけでもワクワクします。

お客様に料理とワインについての感想をお聞きしたところ、料理とワインが一緒になった時の味わいは、バランスがどれひとつかけることなく絶妙に保たれておりとても美味しかったとのことでした。さらに鮑とモンラッシェとなれば、より贅沢な気分にさせてくれることは間違いないでしょう。

私もぜひ味わってみたい至高のマリアージュです。

鮑のパイ包み

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